犬介の放蕩記



■ 作曲家プロデュース・コンサート第3回《湯浅譲二の巻》
2005年 2月 3日 (木) 午後7時開演
サントリーホール
【日本音楽界の巨星、湯浅譲二ワールド】

現代日本を代表する作曲家湯浅譲二による管弦楽の世界。彼の音楽的源泉であるJ.S.バッハ作品と併せて、当コンサート最大の注目である「始源への眼差III」の世界初演をはじめ、2002年に日本フィルによって委嘱・初演され尾高賞受賞作となった「内触覚的宇宙V」待望の再演などを含む充実のプログラムをお贈りします。
同世代に生きる作曲家の生の声を聴ける貴重な機会。どうぞお楽しみに!
チラシ
飯守泰次郎(指揮)
飯守泰次郎
(指揮)
出演 <指揮>飯守泰次郎
<作曲、構成、解説>湯浅譲二
プログラム J.S.バッハ(ストコフスキー編曲):パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV.582
湯浅譲二:始源への眼差II (1992)
湯浅譲二:芭蕉の情景―オーケストラのための(1980)
湯浅譲二:内触覚的宇宙V―オーケストラのための(2002)
      [日本フィル・シリーズ第36作]
湯浅譲二:始源への眼差III(新作・世界初演)
<主催>(財)日本フィルハーモニー交響楽団/日本フィルハーモニー協会
アフィニス文化財団 助成公演
<助成>サントリー音楽財団
<後援>日本現代音楽協会
<協力>サントリーホール
湯浅譲二(作曲)
湯浅譲二
(作曲)



 サントリーホール行ってきた。湯浅譲二のワールドだった。
 生演奏は面白い。P席といって後ろ側の席の最前線だった。楽譜とか見えるし木鉦とかウッドチャイムとかトムトムとかの珍しい打楽器が間近で演奏されてた。CDで聴いてもほとんどいいと思ったためしのない現代音楽が、初めて聴く作曲家なのに楽しめた。ひずみとか電気的歪みのない世界だから、フォルティッシモを本能的に避けるようなことをしない。こんなに目の前で演奏されてるのに、ビッグバン的な音の爆発まで素直に迫力として浴びることができた。
 現代音楽は生演奏で聴かないといけないんだなぁと思い知った。CDで繰り返して聴くメロディーとしての音楽と、現場でヴィジョンとして浮かぶ、映画を観るかのような音楽と、まったく別なものだった。そうやって「浴びる」音楽だったのか。CDで聴く必要はない。そもそもCDでは聴こうとは思わないし。



湯浅譲二 プロフィール
1929年福島県郡山市生まれ。
少年期より音楽活動に興味をおぼえ独学で作曲を始める。
49年慶応大学医学部教養課程に入学。在学中より秋山邦晴、武満 徹らと親交を結び、51年「実験工房」に参加、作曲に専念する。
以来、オーケストラ、室内楽、合唱、劇場用音楽、インターメディア、電子音楽、コンピュータ音楽など、幅広い作曲活動を行っており、国内はもとより、世界の主要オーケストラ、フェスティバルなどから多数の委嘱を受けている。
これまでにニューヨークのジャパン・ソサエティ、DAADのベルリン芸術家計画、シドニーのニュー・サウス・ウェールズ音楽院、トロント大学など世界各国から招聘を受け、また、ハワイにおける今世紀の芸術祭、香港のアジア作曲家会議、英国文化振興会主催の現代音楽巡回演奏会、アムステルダムの作曲家講習会などに、ゲスト作曲家、講師として参加するなど、国際的に活動している。
81年からカリフォルニア大学サン・ディエゴ校教授(現在名誉教授)を務め、現在日本大学芸術学部教授、東京音楽大学客員教授を務めている。
1997年<ヴァイオリン協奏曲>により第28回サントリー音楽賞を受賞。
1998年より武満徹の後任として、「サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ」のアーティスティック・ディレクターを務めている。



 演奏前のトークで、湯浅譲二さんはマイク持って客席のほうに向かって喋っているので後ろのP席は少々空しかったけど、写真の印象とは違いのほほんとしたおじいさんという感じで、ちょこちょこした歩き方にも好感持てた。指揮者の飯守泰次郎さんもちびまるこちゃんに出てきそうなキャラでおもしろかった。
 「始原への眼差V」という曲は初演で、湯浅譲二さんのトークによると、人間が過去に忘れてきたものや宇宙という現象を音楽に投影したい作品のようだ。内触覚的宇宙Xという表題の曲にも通底するのは、「人間と宇宙の交感であり、宗教発生の場といった原初的、始原性の表出である。太古の昔からの記憶、脳幹、海馬の基底部に眠っているものへの呼びかけでもある。」
 この人は大学で医学を学んできたともあって、生物学的に超自然を感知されてた。音楽の基調が自然現象そのものだった。
 「始原への眼差U」では人類が太古に経験した、一つの原風景としての音楽のようだけど「始原への眼差V」ではビッグバン、夜の星空、細胞、進化、etc. そんなところまで溯るようだ。音楽というか音響的な音楽であり、外の宇宙の起源(ブラフマン)に感応するシンメトリカルなアートマンを、時間線上に音描しているように思えた。「芭蕉の情景」ではメシアンに「この曲は時間の新しいコンセプトを持っている。貴方はとても良い耳を持っていて、それで聞き分けた音を正確にオーケストレーションしている」と賛辞をなされたよう。
 飯守泰次郎さんいわく「湯浅さんの曲は指揮をしてて時間感覚がわからなくなる」ようで、この「始原への眼差V」は今までで一番難しいらしい。演奏としてパーフェクトだったのかどうかはわからないけれど、すべてすばらしかった。キラキラしてた。